OldLionの備忘録

年老いたライオンは錆びない。狩りを続け、振る舞いは日々深みを増していく。 いつまでも自分を忘れず、狩りを忘れぬライオンでありたい。 そんなライオンになるための日進月歩。

日本に帰ってきましたよ(8月)

日本に帰ってきましたよ。本帰国ですよ。
目に青葉山時鳥初鰹
というのは江戸時代の日本の風光明媚を歌ったもので、永井荷風が愛してやまない東京の景色である。
今ちょうど「日和下駄一名 東京散策記」を読んでいる。彼は東京の路地、淫詞、銀杏に松、柳などを日本に固有の景色として愛でている。
 
時は移り変わっても、この東京と言う町には独特の東京らしさというものがあるなぁと思う。
まずは路地。縦横無尽に細い路地がいりくねり、そこかしこに生活の臭いがする場所と言うのは他の国では結構みないなぁと思ったりする。大概は店や住居の立ち並びが固まっているから、それがいっしょくたになったりしないし、細い路地は寂れの象徴であることはなく、かえって人間味の宴の匂いのする懐かしい場所になっている。
次に樹木である。明治の永井荷風の時代と変わらず、銀杏や桜は依然として街路樹として人気が高い。それに加えて楠や唐楓、プラタナスのような木も
よく見かけた。明治の当時は、日本らしい風景を残すのに甚だ楓は不釣り合いと言われたものだが、今となってはよいバランスを保ち、それぞれの街路樹がさりげなくそれぞれの路地の雰囲気作りに華を添えているのがよくわかる。これに加えて電信柱ももはや懐かしい景色になってしまった。これはかえって昭和らしいノスタルジーを感じさせる点で日本らしいと言えるのではないか。
 
日本から家に帰ってくる道すがらだけでも、日本らしい匂い、風景をよく感じられる。特に8月の今の時期は梅雨独特のはだをじめっと覆う湿っぽさや、低奏音を奏でるセミの音など、「夏」を感じさせる新鮮な空気を吸い込むだけで自分がどこにいるのかを感じられる。
この移り行く四季の感覚は、独特の没入感を持ち、それ故に外の世界がなんたるかを忘れさせる力がある。日本の予定調和な感覚もここから来ることはよく理解できる。だけど、今だけはこの感覚に浸っていたいなぁと思う。すごく大事なものだから。